ぺしゃんこに倒壊した家屋に向かい、少年が「お母さん」と叫んでいる声が響き渡る...
見渡す限りの家は傾き、辺りには火災の煙が漂っていた。
14日夜、かつてない激しい揺れが突然、熊本地方を襲った。
震度6弱、6強…。未明まで何度も大きな余震が続く中、住民たちは停電して真っ暗な町を悲鳴を上げて逃げ惑っていた。
消防や警察が懸命の救助活動を続け、避難した住民は布団をかぶり、震えながら夜を明かした。
14日午後9時半前。
熊本市内で取材中に、激しい揺れを感じる。
熊本県中部の益城町が震源地と聞き、取材を打ち切って現地に車を飛ばし、急行した。
30分ほど走ると、電柱が傾いて電線が垂れ下がっていた。
町全体が停電しているようで、信号機も街灯も消えている。
車を止め、ヘッドライトを向けてみると、
辺り一面の家屋が斜めになっているのが分かるくらいで
見たこともない光景だ。
倒壊した家屋に近づくと、部屋の中がむき出しで、カーテンや無残に折れた木の柱が見える。
道路にはガラスやブロックが散乱し、パチンコ店の店内がめちゃくちゃに壊れていた。
カーナビの位置情報を見ると、「益城町木山」と表示されている。
倒壊した家屋のそばで座り込んでいる親子連れ。体にタオルを巻き付けている人。
犬が鎖につながれていない状態で走り回っている状態だ。
住民が通りかかる車1台ごとに「この先は崖が崩れている。通れないから。直進しちゃだめ」と声を張り上げている。
消防団の車がサイレンを鳴らして走り「けが人はいませんか」「取り残されている人はいますか」と必死で声を掛けて回っていた。
その間も5~10分ほどの間隔で身の危険を感じるほどの余震が続くのだ。
布団を防空ずきんのように頭からかぶり、携帯電話のライトや懐中電灯を照らしながら恐る恐る避難する人もいる。
上空でヘリが旋回している。
車を降りると、暗闇の中でさらに真っ黒い煙が上がっているのが見えた。
走って近づいてみると、民家が火の粉を上げて激しく燃えていた。しばらくすると消防車が到着し、消火活動を始めた。
近くでは、2階建ての木造家屋が真っ二つに裂けている。
この家の住民だろうか。3歳ぐらいの女児がぐったりして座り込み、祖母とみられる女性に寄りかかっていたのだ。
入浴中だった女性が中に閉じ込められたままで、安否が分からないという。
道路を挟んで向かい側の民家は1階部分が押しつぶされていて、
「ここに人が閉じ込められていると通報がありました。だれか分かる人はいますか!」
駆け付けた消防隊が手当たり次第に声を掛けていく。
「お母さん! お母さん!」
中学生ぐらいの少年がぺちゃんこになった家の中に向かって何度も何度も叫んでいた。
現場では震度6級の余震が続き、二次災害の懸念から救助活動が難航していたのである。
どこかでガスが漏れているのか、シューという音と異臭がする。
近くの家で下敷きになっていた80代の女性が助け出され、畳に乗せて搬送された。
中年の女性が駆け寄り、しがみついた。「お母さん! よく頑張ったね」
今もなお、町役場の前ではブルーシートの上で毛布にくるまった数百人の避難住民が余震の度に悲鳴を上げ、寒さに震えている。。。
=2016/04/15付 西日本新聞朝刊=